アトピー性皮膚炎の患者数は増えている

アトピー性皮膚炎と紫外線

かゆみをともなう湿疹が繰り返す「アトピー性皮膚炎」。この病気は、紫外線との関係が複雑です。紫外線が症状を悪化させる一方で、正しく制御された紫外線が治療にも使われます。患者数が急増している今、アトピーと紫外線の正しい関係を知っておくことは、皮膚を守るうえでとても重要です。

アトピー性皮膚炎の患者数

アトピー性皮膚炎の患者数は急増している

厚生労働省が3年ごとに実施する「患者調査」によると、アトピー性皮膚炎の推計患者数は年々増え続けています。1987年には22万4,000人だったものが、2014年には45万6,000人、そして2023年には160万9,000人にまで膨らみました(厚生労働省患者調査)。約36年間で実に7倍以上、直近10年だけで見ても約3倍という驚くべき増加ペースです。

1987年(昭和62年)

22.4万人

厚生労働省患者調査

2014年(平成26年)

45.6万人

厚生労働省患者調査

2023年(令和5年)

160.9万人

厚生労働省患者調査

なお、この数字は「調査時点の約3か月以内に医療機関を受診した患者数」のため、実際には受診していない潜在的な患者を含めると、さらに多くの方が症状を抱えていると考えられています。

なぜ増えているのか?

患者数増加の背景には、生活環境の変化が深く関わっています。住宅の高気密化によるダニ・カビの増加、食生活の欧米化、大気汚染、過度な清潔志向による皮膚常在菌の減少などが挙げられます。また、かつては「子どもの病気」とされてきたアトピー性皮膚炎ですが、近年は成人になっても症状が続く「成人型アトピー」や、成人してから初めて発症するケースも増えており、20〜30代の若い世代でも有症率が高いことが明らかになっています(「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024」日本皮膚科学会)。

アトピー肌にとって、紫外線は「異物」になる

皮膚バリア機能の低下がすべての出発点

健康な皮膚には、アレルゲン・細菌・化学物質などの外敵が体内へ侵入するのを防ぐ「バリア機能」が備わっています。この機能の要となるのがフィラグリンというタンパク質で、皮膚の最外層(角層)を強固にし、水分を保持する役割を担っています。

アトピー性皮膚炎の患者さんでは、このフィラグリンをつくる遺伝子に変異があることが多く、バリア機能が生まれつき低下しやすい状態にあります。日本人のアトピー性皮膚炎患者の1〜2割程度がフィラグリン遺伝子変異を持つとされており(Mochida Healthcare「アトピー性皮膚炎」解説)、この変異がない患者さんでも、炎症によってフィラグリンの産生が低下し、バリアが崩れた状態が続きます。

「バリアが崩れた肌」では、紫外線もまた「異物」として肌へのダメージを与えます。
健康な肌では皮膚がある程度紫外線を受け止め、内側を守ります。しかしアトピー肌では角層が薄く乾燥しており、紫外線防御能が低下。紫外線が肌の奥まで入り込み、炎症をさらに悪化させる原因になるのです。

紫外線がアトピー肌を傷める3つのメカニズム

メカニズム何が起きるか
① 炎症の促進すでに炎症しているアトピー肌に紫外線があたると、炎症性サイトカイン(TNF-αなど炎症を促す物質)がさらに放出され、赤み・かゆみ・湿疹が悪化します。
② 乾燥とバリア機能の悪化紫外線は皮膚から水分を蒸発させ、乾燥を招きます。乾燥はバリア機能をさらに低下させ、アレルゲンが侵入しやすい状態をつくります。
③ 活性酸素による細胞ダメージ日焼けで生じる活性酸素は、皮膚細胞を傷つけ炎症を悪化させます。アトピー肌はもともと活性酸素への防御力も低いため、より大きなダメージを受けやすい状態にあります。

photo-Koebner現象:紫外線で皮疹が新たに出ることも

アトピー性皮膚炎の患者さんの一部には、日光を浴びた部位に新たに皮疹が出現する「photo-Koebner(フォト・ケブネル)現象」が見られます。これは皮膚が紫外線刺激を「異物」として認識し、免疫反応が過剰に起きる状態です(皮膚研究誌「アトピー性皮膚炎患者の紫外線対策」より)。

また、アトピー性皮膚炎の標準治療薬であるタクロリムス外用薬(プロトピック)を使用中は、理論的に発がんを促進する可能性が指摘されているため、特に丁寧な紫外線防御が推奨されています(同上)。

「日焼けしたら治った気がする」は要注意
夏に外で過ごして一時的にかゆみが落ち着いたと感じる場合、多くは「日光による熱作用や発汗による一時的な変化」であることが多く、日光そのものがアトピーを改善したわけではないケースが多いとされています。安易に「日光浴でアトピーが治る」と考えず、皮膚科医に相談することが大切です(皮膚研究誌「アトピー性皮膚炎患者の紫外線対策」より)。

アトピー性皮膚炎の方が日焼けを防いだほうがいい理由

上記のメカニズムから、アトピー性皮膚炎の方には健常者以上に積極的な紫外線対策が必要です。その理由を整理します。

  • 症状が悪化しやすい:紫外線が炎症・かゆみ・湿疹を悪化させ、「かゆい→掻く→悪化」の悪循環を断ち切れなくなります。
  • 色素沈着が残りやすい:炎症後の色素沈着(茶色いあと)が残りやすく、日焼けによってさらに長期化します。
  • 新たな炎症を招く:日焼けによる炎症が、今まで症状がなかった部位に新たな湿疹を引き起こすことがあります。
  • 治療効果が下がる:タクロリムス外用薬など一部の治療薬は、日光との組み合わせで皮膚への負担が増す可能性があります。

アトピー肌に合った紫外線対策とは?

アトピー性皮膚炎の方の日焼け対策は、肌への刺激が少ない方法を選ぶことが重要です。皮膚科の専門家は「日傘・衣類などによる物理的な遮光」を第一に推奨しており、日焼け止めはそれを補うかたちで使用することが勧められています(皮膚研究誌「アトピー性皮膚炎患者の紫外線対策」より)。

💡 アトピー肌の紫外線対策のポイント

① まずは「衣類・帽子・日傘」で物理的に紫外線をさえぎる。
② 日焼け止めを使う場合は、紫外線吸収剤不使用の「ノンケミカルタイプ(紫外線散乱剤のみ)」を選ぶ。
③ 保湿剤・ステロイド外用剤などを塗布した後に、日焼け止めを重ねるとよい。
④ タクロリムス外用薬(プロトピック)使用中は特に日光に注意する。
⑤ 曇りの日も紫外線は降り注いでいるため、1年を通じた対策が基本。

一方で、「紫外線でアトピーを治療する」方法もある

ここで「え?」と思った方も多いでしょう。実は、紫外線はアトピー性皮膚炎の治療にも使われます。ただし、それは日常的な日光浴とは全く異なる、医療機関での精密にコントロールされた照射です。

なぜ紫外線で治療できるのか:免疫抑制と神経線維の縮小

紫外線には皮膚の免疫に関わる細胞(T細胞など)の働きを抑制する作用があります。アトピー性皮膚炎は免疫の過剰反応が根本にあるため、適切な量の紫外線を照射することで炎症を抑え込む効果が期待できます。

また、重症化・慢性化したアトピーでは、かゆみを感じる知覚神経の線維が皮膚の表皮内にまで異常に増殖し、わずかな刺激でも強いかゆみを感じる状態になります。紫外線療法はこの増生した神経線維を縮小させ、かゆみの悪循環を断ち切る効果も報告されています(あゆ皮フ科クリニック「紫外線治療ナローバンドUVBのお話」より)。

現在行われている3つの光線療法

療法名使用する紫外線特徴
ナローバンドUVB療法UVB(波長311±2nm)現在最も広く用いられる。有害波長を除いた狭い波長帯のみを照射。副作用が少なく、ソラレン内服が不要。保険適用。
UVA1療法UVA(波長340〜400nm)急性増悪期に有効とする報告あり。皮膚深部まで到達しやすい。一部施設で実施。
PUVA療法UVA+ソラレンかつての主流。光増感剤(ソラレン)を併用するため治療後の日光回避が必要。長期継続で皮膚発がんリスク上昇の報告あり。現在はナローバンドUVBに移行しつつある。

【学術的根拠】ガイドラインと文献

■ アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024(日本皮膚科学会)
「適切な外用療法やスキンケア、悪化因子対策で軽快しない例や、他の治療で副作用を生じている中等症以上の難治状態のアトピー性皮膚炎には、紫外線療法を行ってもよい」と明記。「ナローバンドUVBは慢性期に、UVA1は急性増悪時により有効とする意見がある」とし、長期にわたるPUVA療法は皮膚発がんリスクを上昇させるが、ナローバンドUVBはそのリスクを有意には上昇させないとの報告があることも示されている。
出典:日本皮膚科学会「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024」
https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/ADGL2024.pdf

■ 皮膚研究(J-STAGE掲載論文)
「アトピー性皮膚炎患者の紫外線対策」(皮膚研究 Vol.6 Suppl.9)では、アトピー性皮膚炎に対する紫外線の影響を「功罪両面がある」と評し、紫外線の免疫抑制作用によるUVB照射・PUVA療法の治療効果と、過剰照射による悪化(photo-Koebner現象)の両面を整理している。
出典:皮膚研究 6(Suppl.9):B43, J-STAGE
https://www.jstage.jst.go.jp/article/skinresearch/6/Suppl.9/6_Suppl.9_B43/_article/-char/ja/

■ Parrish JA & Jaenicke KF(1981年)
乾癬に対する有効波長を検討した古典的研究で、304〜313nmのUVBに治療効果があることを示した。その後の研究で有害な波長域(280〜300nm)が判明し、それ以外の有効帯のみを切り取ったナローバンドUVBが開発される基礎となった。
出典:Parrish JA, Jaenicke KF. Action spectrum for phototherapy of psoriasis. J Invest Dermatol. 1981;76(5):359-362.

■ 日本アトピー協会による解説(ガイドライン2024引用)
ナローバンドUVBは乾癬やアトピー性皮膚炎の多数症例で比較検討が行われ、外用療法のみでは改善しない症例に対して「かなりの改善を見ることが明らかになってきている」と報告。
出典:特定非営利活動法人 日本アトピー協会「知って得する情報」
https://www.nihonatopy.join-us.jp/skin/shittoku/shigaisen.html

注意:紫外線療法は医療機関でのみ行うもの

紫外線療法はナローバンドUVBの専用装置を使って照射量を精密に管理する医療行為です。日常の日光浴や市販の紫外線ランプは全く別物であり、自己判断での「日光浴療法」はアトピーを悪化させるリスクが高いため、絶対に避けてください。

また、光線過敏症がある方・免疫抑制薬を使用中の方・皮膚がんの既往がある方には適用できないため、必ず皮膚科医に相談することが必要です。

まとめ:アトピーと紫外線の「矛盾しない」関係

アトピー性皮膚炎と紫外線の関係は、一見矛盾しているように見えます。しかし整理すると、次のようにシンプルに理解できます。

  • 日常生活で浴びる紫外線(日光)はアトピー肌のバリアを崩し、炎症・かゆみを悪化させるため、しっかり防ぐ必要がある。
  • 一方、医療機関で使用する特定波長の紫外線(ナローバンドUVBなど)は、免疫を適切に抑制し、難治性アトピーを改善する治療として保険適用で使われている。
  • この「防ぐべき紫外線」と「治療に使う紫外線」は、波長・量・管理方法が根本的に異なる。

患者数が増え続けるアトピー性皮膚炎。正しい知識を持って紫外線から肌を守りながら、治療については皮膚科専門医とともに最適な方法を選ぶことが大切です。

【参考文献・出典】

1. 厚生労働省「患者調査」各年度(1987年・2014年・2023年)

2. 日本皮膚科学会「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024」
https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/ADGL2024.pdf

3. 皮膚研究 6(Suppl.9):B43「アトピー性皮膚炎患者の紫外線対策」J-STAGE
https://www.jstage.jst.go.jp/article/skinresearch/6/Suppl.9/6_Suppl.9_B43/_article/-char/ja/

4. Parrish JA, Jaenicke KF. Action spectrum for phototherapy of psoriasis. J Invest Dermatol. 1981;76(5):359-362.

5. 日本アレルギー友の会「アトピー性皮膚炎のナローバンド療法」(認定NPO法人)
http://allergy.gr.jp/archives/454

6. 特定非営利活動法人 日本アトピー協会「知って得する情報:紫外線療法」
https://www.nihonatopy.join-us.jp/skin/shittoku/shigaisen.html

7. 持田ヘルスケア株式会社「スキンケア講座 アトピー:フィラグリンとバリア機能」
https://hc.mochida.co.jp/skincare/atopic/atopic6.html

8. 日本アレルギー学会「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021」アレルギー 70(10), pp1257-1342, 2021.

子供のための紫外線対策協会は、紫外線と紫外線対策について情報を提供しています
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紫外線.com / 子供のための紫外線対策協会 / 株式会社ピーカブー
松成紀公子

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